奇想の系譜 辻惟雄著
日本画関連の本などを見ていると、名著としてこの本がしばしば出てくる。今や大人気の若冲を世に知らしめるきっかけになった本とも。古い本だし、難解ではないかという心配もあったが、文庫本で手に入るとのことなのでネットで購入。
さすが名著といわれるだけある。今読んでもまったく古くないし、霧が晴れるように納得できた部分がいくつもあった。たしかに名著だと思う。
元本は1970年に書かれた物なので、40年以上も前ということになる。その後新装版、文庫版と改定されたものだ。専門家でなくても読みやすく、日本美術好きなら面白く読めると思う。
岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曾我蕭白、長沢蘆雪、歌川国芳という、それまで日本絵画史の脇役だった画家を挿絵を入れながら解説している。彼らの斬新さを「奇想」というキーワードで象徴して。いずれも今では有名な画家ばかりだ。
言い換えると「グロテスク」であったり、「エキセントリック」であったり、「異様」であったり、「おどろおどろしさ」であったり、「げてもの」であったり。。。たしかにそれらが彼らの表現であり、個性であり、芸術性なのだということがわかってくる。と、思って見ると、今まで気持ち悪かった絵がとても面白く見えてくるから不思議だ。
たとえば蕭白。有名な龍の絵などはいいと感じるが、大半の絵は正直気持ち悪くてどこがいいのだろうと思っていた。この本を読んでもけっして好きになったというわけではないが、この気持ち悪さを楽しんで見れるようになった。まさにこの異様な世界観こそが、蕭白の芸術性であり、すごさなのだ。そして江戸時代の民衆からも、むしろ好まれていたらしい。怖いもの見たさというような部分があるのかもしれないが、心を引き付けられるインパクトがあるのは確かだ。たしかに面白い。
きまま仙人は、6人でいうと、特に蕭白と国芳が面白かった。6人の解説を追っていくと、それぞれ個性は違うが、共通した世界観「奇想」というものも見えてくる。6人のというより、江戸時代の日本文化の「奇想」といっていいだろう。そう理解すると、気持ち悪さや異様感の先が少し見えてくる気がする。
図がカラーでもう少し大きければ尚いいが、今はネットで画像を調べることもできる。文庫本である安さや手軽さを考えるときまま仙人は十分だと思う。
もしまだ読まれていない日本画ファンがおられたら、ぜひおすすめしたい。ちなみに辻氏には続編ともいえる「奇想の図譜」という著書もある。すぐに発注したのは言うまでもない。
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