冷たい炎の画家 ヴァロットン展
正直、絵そのものについては、それほど気に入ったものがあったわけではないが、見るのはなかなか楽しかった。構成は以下のように、結構多くに分けられている。
1章 線の純粋さと理想主義
2章 平坦な空間表現
3章 抑圧と嘘
4章 「黒い染みが生む悲痛な激しさ」
5章 冷たいエロティズム
6章 マティエールの豊かさ
7章 神話と戦争
まず、意味深な絵が興味を引く。「貞節なシュザンヌ」では娼婦がなんとも言えない表情で、頭のはげた2人の紳士とひそひそ話。「赤い服を着た後姿の女性のいる室内」では情事のあとを覗き見しているような設定。ポスターやチラシに掲載されている「ボール」も2つの視点から書かれている。
貞節なシュザンヌ
赤い服を着た後姿の女性のいる室内
木版画のアンティミテの中の1枚では大部分を占める黒地の左端に紳士と淑女?、タイトルは「お金」だ。ちょっと危ない匂いのする物語を想像させてくれる。こういう部分が、この作家の面白さのひとつだろう。
お金
嘘
次に印象に残るのが白黒の木版画。マッターホルンやモンブラン、ブライトホルンなど、きまま仙人も名前を知っているような山の風景もあれば、小説「にんじん」の挿絵のようなものもある。が、やはり危険な香りのするものがいい。特に白黒のみで、黒のベタの使い方や、白抜きの裸体などはいい感じ。前述の「お金」では右側の黒ベタの部位分に何があるのか想像してしまうし、「怠惰」では、白抜きの裸体が映えている。1枚1枚の版画は小さいのだが、ひとつひとつじっくり見入ってしまう。
怠惰
もうひとつは裸婦。別に汚いわけでも見にくいわけでもないのだが、美しい裸体と感じる絵は少ない。むしろ、誘っていたり、意味深な表情だったり、商売を感じさせたり、、、こちらもいけないストーリーを想像させるものが多い。身体自体は、妙に肉がだぶついていたりしているところに生々しさというか、現実っぽさを感じる。
赤い絨毯に横たわる裸婦
最後に神話を題材にした絵がまた驚き。「竜を退治するペルセウス」や「立ち上がるアンドロメダとペルセウス」などはのパロディ?かと思うほどの違和感。
他に行きたい展覧会があったら、行かなかっただろうヴァロットン展。時間のある休日にぶらっと行くには、十分楽しめる展覧会だった。
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