時計コレクション (番外56) 時計の社会史 角山栄著
内容的には、もっと面白く書けるだろうに、著者が大学の先生だからか、中公新書という性格か、真面目に学問的?に書きすぎで、全体的には面白みに欠ける。惜しい本といえる。章によっても当たりはずれがあり、興味を持てる内容はとても面白く読めたが、そうでないと、、、
内容は古今東西の時計にまつわる話と、その時の時代や人々の暮らし(社会史?)が書かれている。著者は経済学の大学教授で、経済学の先生がなぜこのような本を?と意外に思った。簡単に章名をあげると、
・シンデレラの時計
・東洋への機械時計の伝来
・「奥の細道」の時計
・和時計つくった人びと
・江戸時代の暮らしと時間
・ガリヴァの懐中時計-航海と時計
・時計への憧れ-消費革命と産業革命
・昼間の時間と夜の時間
・時計の大衆化-スイス時計とアメリカ時計
・機械時計の歴史の終わり-ウォッチの風俗化
あとがき
参考文献
時計が無かった時代はどういう生活だったんだろう?とか、待ち合わせとか大変だっただろうなぁ、とかは、きまま仙人も考えたことがある。たしかに社会史(という言葉が適切かどうかは別だが)として学問になるんだ、というのは目から鱗だった。時間・時刻・時計という観点で、生活や文化を切ってみるのは面白い。ただあまりにも時計から離れた西洋のことを書かれても興味の持てないものも多かったのは事実。
きまま仙人は主に腕時計好きなので、クロックの頃の話や懐中時計のことの話は、知らないことも多くなかなか面白かった。特にアメリカの時計産業では、部品の規格化・共通化や分業化で大量生産を可能とし、イギリスの時計工業の衰退につながったあたりは興味深い。懐中を調べないとアメリカ時計ってあんまり出てこないんですよね。アメリカ時計工業の良さを書いた本は珍しい?
西洋から東洋へ機械式時計が伝わった時の受け入れ方の違いも面白い。中国では富裕者の高級玩具として蒐集ブームがあり、西洋以上に華美な時計がもてはやされた。一方日本では、(当時は不定時法時代)実用性の乏しい西洋の定時法用の時計にほとんど興味が持たれず、逆に不定時法で使える世界でも類を見ない和時計が作られる。昨年北京の故宮博物院で、まさにそういう時計たちを見てきただけに腑に落ちた。
もう1点、面白かったところを上げると、1964年のデータ(まだクォーツ腕時計はない)で、スイスの時計出荷数は日本の倍以上。ところが売上高は日本の方が上。本当だったのだろうか? スイスよりも日本の方が高級時計を作っていたということか?
こういうデータも実に興味深い。
1978年の米BusinessWeek誌、特集「SEIKO'S SMASH」
少し気になったのは、書かれた時期が機械式時計の復興前だからか、機械式時計の時代は終わった風で終わってしまっていること。ここは復刻版はどう書かれているのか、そのままなのか気になるところ。もうひとつは、ちょっと調べてみないとわからないが、事実なの?と思える点がいくつかあったこと。調べないで書きたくないが、鍵巻き時計を鍵なしにするのに精度が落ちる?っていうのは何を言いたいのだろう? ゼンマイの巻き方の違いだけだから、精度が落ちる理由はないと思うのだが、、、などだ。
読むのは少ししんどかったが、内容的には価値のある本だと思う。
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