孟嘗君
宮城谷昌光氏の「孟嘗君」を読んだ。5巻完結の長編小説だが、一気に読みきった。いや面白い。一大スペクタクルというか、冒険活劇というか。ミステリーも好きだが、実在の人物(そうでない人もいそう?)を書いた歴史物はそれ以上に面白い。
中国、周の時代に春秋戦国時代があるのは昔勉強した。孟嘗君という人物がいたこと、「鶏鳴狗盗」という故事は漢文で習った。が、恥ずかしながら正直それ以上のことはまったく知らなかった。先日TVで宮城谷氏が出演し、孟嘗君について、その人物を説明している番組をたまたま見たのがきっかけで、読んでみたいと思い、ブックオフオンラインで大人買いしたのだ。ちなみにこの手の本は、ブックオフオンラインで中古を買うと半額ほどで買えてしまうのでうれしい。おそらく一度読んだら、人にあげるかブックオフに逆戻りのはずなので、、、
ただ知識が乏しい分、どこまでが史実に基づいた話で、どこからが作者の創造なのかそのあたりの区別が付かないことは気になった。たとえば孫臏(孫子)、は実在の人物で、桂陵の戦いや馬陵の戦いは実際にあった史実だ。が、その中での孫臏の戦術や龐涓の死に方などはどうなんだろう? また本作の中盤の読みどころである孫臏の魏からの脱出劇なども、どこまでが史実でどこからが空想なのだろうか?そのあたりの境がまったくわからない。(仙人が無知なだけですが。。。)
もっといえば風洪(あるいは白圭)や洛芭は実在した人物なのだろうか?少し調べてみたけどよくわからない、というか断定できないでいる。宮城谷氏の創作上の人物なのだろうか? どうもモデルになった白圭という堤防を作った商人はいたようだ。
1,2巻は、孟嘗君こと田文の誕生から風洪(白圭)に育てられるようになる経緯を除くと、孟嘗君の話はほとんどない。主人公は風洪だ。この風洪は実に爽快な英傑に描かれていて気持ちがいい。正義感、侠気があり、行動力、決断力を備え、それでいて人の気持ちがわかるやさしさがある。何より女にもてる(が実際は手は出さない。)。そして対比するように法を中心に秦を覇に導こうとする義弟の公孫鞅(商鞅)や、魏の将軍となる龐涓、兵法家として有名な孫臏(孫子)、金儲けだけではない商人の斉巨、鄭両やその使用人、学者たちが実に多彩に絡んでいく。
ストーリーの展開が速く、テンポがいい。風洪は何をやっても結果的にはうまくいき、気持ちがいい。痛快な物語と言っていいだろう。3巻にはいり、物語は風洪から離れ孫子や田嬰を中心に展開していく。孟嘗君が主人公として活躍するのは、4巻も途中からである。そういう意味では三国志も多くのすばらしい登場人物がいて、主人公も劉備のときもあれば曹操、孔明などなど多々展開されていくが、目指すところや相互関係がまだわかりやすい。中華の統一、あるいは三分という一本の幹がわかりやすいからだ。孟嘗君はその点、全体の構成としてみると、孟嘗君の目指すところが見えにくく、幹と枝の区別がつきづらいような感じがある。宮城谷氏はあとがきの中で中庸という語で表現しているが、確かに本人は無欲というか、大望野心がなく、バランスを取ろうとしていたように思える。そういう意味では、真の理想が無いとも言える。同じ分立支配という考え方であっても、孔明の天下三分の計の方がビジョンがクリアだ。
さらにいくつかのサイドストーリーが物語を盛り上げている。特に隻真の復習は全編に渡って係わっていると言っていい。わからないのはあの(殺人)琴だが。。。なぜ満月なんだろう?この部分だけオカルト的で違和感があった。
あと、この周の戦国時代の不思議として、しばしば1人の知恵者の弁だけで、君主や権力者の考えを180度変えてしまう場面が出てくる。もちろんそういうこともあっただろうが、そんなに簡単に納得するかなぁ?と不思議に思う点も多々ある。情報伝達が遅く不正確なこともあっただろう。写真や録音といった記録もない。論理的な部分は理解できるだろうが、その前提や事実として語られることを簡単に信じるだろうか?はなはな疑問だ。
いやまだまだ書きたいこともいっぱいあるが、間違いなく今年読んだ小説の中で、最も面白く、かつ感動した本だ。ついつい夜更かしして呼んでしまう小説だった。春秋戦国時代についても少し勉強したいと思った。
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