FLY
新野剛志氏の「FLY]というミステリーを読んだ。よく行く書店のお薦めNo.1とのことで、推薦分も面白そうだったので購入してみた。600ページを越える長編ミステリーで、きまま仙人が読んだものとしては新しく、非常に面白かった。
もちろん、と言っては失礼かもしれないが、新野剛志氏という名前すらまったく知らなかった。本当に本屋さんの推薦がなかったら手に取ることもなかったと思う。が、推薦されているだけあって、なかなか面白かった。今年読んだミステリーは現実離れした突飛な設定や不自然と思えてしまう設定が多く、面白いのは面白いんだが、やや反則というか、違和感がぬぐえないところはあった。たとえば道尾秀介氏の「向日葵の咲かない夏」では殺された少年がクモになって生き返るし、伊坂幸太郎氏の「オーデュボンの祈り」では人格を持ち話す事のできる案山子が出てくる。この「FLY]はそういう点では、まっすぐで違和感のないミステリーで好感がもてる。ある意味、これが本来のミステリーだと思うのだが。
まずこのこの話は主人公が変わっていく。はじめは恋人を殺人犯に殺される向井なのだが、その後俊介になったり、三咲になったり、また俊介になったり。そして初めに殺される佳奈や殺人犯戸浦の娘祥子が重要な鍵を握る。なかなか先の見えない予想外の展開が新しかった。そして上にあげたような各主要人物はいろいろ欠点や問題、どうしてそういう行動をするの?みたいなところはあっても、基本的に共感できたり、好意を持てたり、理解できるところがこの話を魅力あるものにしているように思う。
気になる点というか不満な点もないわけではない。一番は殺人犯戸浦についてはもう少し書き込んでほしかった。彼についてはなぜ?と思う点が多々あり、彼が殺される経緯についても犯人が明らかにされた後でいいので、もう少し書かれていてもよかったと思う。あとは、佳奈や祥子の人生、生き方は悲しすぎる。一方的に理不尽にそうなったというならまだわかるが、そういう選択を彼女らがしているところがこの話を暗くしている。むしろ三咲の生き方の方が前向きに思える。
今は道尾氏や伊坂氏らの方が人気もあり、一般受けするのかもしれないが、きまま仙人は今後の新野氏の作品に注目したい。
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