時計コレクション (17) Hamilton Chronomatic (Cal.11)
Cal.11はビューレン社が得意だったマイクロロータ式の自動巻きベースムーブメントを採用。デュボアデプラッツ社がクロノグラフモジュールを開発。ブライトリングやハミルトンが完成品として組み立て1969年3月に発表。モジュール式といわれる自動巻きクロノグラフムーブメントだ。そのため9月にel-primeroを発表したゼニスは((2)ゼニス Chronomaster参照)、el-primeroこそ世界初の新設計な一体型自動巻きクロノグラフムーブメントと主張している。(実際は5月?にセイコーがCal.6139を発売しているので、こちらが世界初!ではないかと思われる。Cal.6139については、また別に紹介したい。) そして皮肉にも同年12月25日、セイコーが世界初のクオーツ腕時計アストロンを発売し、その後のクオーツショックを引き起こす。周知のようにクオーツショックでは、ほとんどのスイス時計メーカーが壊滅的な打撃を受ける。
この時計は17石、5.5振動/秒(19,800振動/時)、6時位置にデイト表示。インダイヤルは3時位置に30分積算計、9時位置に12時間積算計の2つ目だ。スコセコがないのも特徴。ブライトリングやホイヤーのクロノマチックは、振動数を6振動に上げたCal.12が多い中、比較的程度のいいCal.11だと思う。ちょっと薄っぺらいブリッジに11の文字が刻印されている。のちにCal.15というのが作られるが、12時間積算計を外し、10時位置(非対称)にスモセコを付けたムーブもある。デザイン的には奇抜だが、バランスは明かにCal.11/12の方がいい。
マイクロロータはクロノグラフモジュールの下にあり、テンプの奥にかすかに見えるだけでよくはわからない。マイクロロータなので自動巻きの効率もあまり良くない。高級品はゴールドなど比重の重いものを使うので機能するが、ステンでは少し回転力という面で厳しいのかもしれない。カム、スイングピニオン方式(Valjoux77参照)だ。見た目は非常に(無駄に?)複雑に見える。が、動きはなかなか面白い。その後Cal.11はバルジュー(Valjoux)に受け継がれ、手巻きとなってValjoux7740となる。Valjoux7730、7733、7734、そして汎用ムーブとなったValjoux7750(ETA7750)へと繋がっていくのにスイングピニオンという部分では影響を与えたのだと思う。
リューズが左にある点については諸説ある。デザインのためとの説もあるが、きまま仙人は既存モジュールを改良した上で、組み合わせる(積み重ねる)のにクロノグラフモジュールを180度回転させた方が、組み合わせやすかったのではないだろうか?と思う。ただリューズが左にあるデザインそのものは悪くはないし、個性的でいいとは思う。しかし右利きの仙人にとって、時刻合わせはリューズが左だとやり辛いことは事実だ。
またスモセコがないのも当時のモデルとしては特異だ。この点も発表を急ぐあまり犠牲にしたのではないかとも思われる(あくまで予想)。 このモデルはいろいろな意味で時計史的には大きな足跡を残したといえるが、完成度という意味ではel-primeroの方が数段上といわざるを得ない。このCal.11は、自動巻きクロノグラフ開発競争と、コストダウンの要請、クオーツの波などの憂鬱や焦り、葛藤の中で生まれた儚いムーブメントのような気がしてならない。そういう意味でも時計史に残しておくべき1本だと思われる。
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